ア 民法714条1項の規定は、責任無能力者が他人に損害を加えた場合にはその責任無能力者を監督する法定の義務を負う者が損害賠償責任を負うべきものとしているところであるが、精神障害者と同居する配偶者であるからといって、その者が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできないというべきである。もっとも、法定の監督義務者に該当しない者であっても、その監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとするのが相当であり、このような者については、法定の監督義務者に準ずべき者として、同条1項が類推適用されると解すべきである。
イ 民法715条にいわゆる「事業ノ執行ニ付キ」とは、被用者の職務の執行行為そのものには属しないが、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものと見られる場合をも包含するものと解すべきである。けだし、いわゆる「事業ノ執行ニ付キ」という意味を上述のように解する趣旨は、取引行為に関するかぎり、行為の外形に対する第三者の信頼を保護しようとするところに存するのであって、たとえ被用者の行為が、その外形から観察して、その者の職務の範囲内に属するものと見られるからといって、それが被用者の権限濫用行為であることを知っていた第三者に対してまでも使用者の責任を認めることは、右の趣旨を逸脱するものというほかないからである。
ウ 民法722条2項が不法行為による損害賠償の額を定めるにつき被害者の過失を斟酌することができる旨を定めたのは、不法行為によって発生した損害を加害者と被害者との間において公平に分担させるという公平の理念に基つ”くものであると考えられるが、右被害者の過失には、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失、すなわちいわゆる被害者側の過失まで包含するものとは解されない。したがって、夫が妻を同乗させて運転する自動車と第三者が運転する自動車とが、右第三者と夫との双方の過失の競合により衝突したため、障害を被った妻が右第三者に対し損害賠償を請求する場合の損害額を算定するについては、右夫婦の婚姻関係が既に破綻にひんしているなど特段の事情のない限り、夫の過失を被害者側の過失として斟酌することができないものと解するのを相当とする。
エ 民法724条1号は、不法行為に基づく法律関係が、未知の当事者間に、予期しない事情に基づいて発生することがあることにかんがみ、被害者による損害賠償請求権の行使を念頭に置いて、消滅時効の起算点に関して特則を設けたのであるから、同条にいう「損害及び加害者を知った時」とは、被害者において、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度にこれらを知った時を意味するものと解するのが相当である。よって、同条にいう被害者が損害を知った時とは、被害者が損害賠償請求が可能な時をいうと解すべきである。
オ 民法724条2号の規定は、不法行為によって発生した損害賠償請求権の時効期間を定めたものと解するのが相当である。けだし、同条がその1号で3年の短期の時効について規定し、更に同条2号で20年の長期の時効を規定していると解することは、不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図する同条の規定の趣旨に沿わず、むしろ同条1号の3年の時効は損害及び加害者の認識という被害者側の主観的な事情によってその完成が左右されるが、同条2号の20年の期間は被害者側の認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたものと解するのが相当であるからである。
1 ア・イ
2 ア・オ
3 イ・ウ
4 ウ・エ
5 エ・オ