ア 国家公務員法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては、公正であるべきことを定め、平等取扱いの原則及び不利益取扱いの禁止に違反してはならないことを定めている以外に、具体的な基準を設けていない。したがって、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができるものと考えられるのであるが、その判断は、右のような広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指導監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ、とうてい適切な結果を期待することができないものといわなければならない。
イ 原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理、判断は、原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって、過去の科学技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、被告行政庁の右判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。
ウ 土地収用法一三三条所定の損失補償に関する訴訟は、裁決のうち損失補償に関する部分又は補償裁決に対する不服を実質的な内容とし、その適否を争うものであるが、究極的には、起業者と被収容者との間において、裁決時における同法所定の正当な補償額を確定し、これをめぐる紛争を終局的に解決し、正当な補償の実現を図ることを目的とするものということができる。右訴訟において、被収容者である土地所有者等は判決によって、裁決に定める権利取得の時期において収容土地にに関する権利を失い、収容土地の利用ができなくなる反面、起業者は右の時期に権利を取得してこれを利用することができるようになっているのであるから、被収容者は、正当な補償額と裁決に定められていた補償額との差額のみならず、右差額に対する権利取得の時期からその支払済みに至るまで民法所定の年三分の法定利率に相当する金員を請求することができるものと解するのが相当である。
エ 修正意見を付することは、申請者がこれに応じて訂正、削除又は追加などの措置をしなければ教科書として不合格となるというものであるから、合格に条件を付するものであり、これが国家賠償法上違法となるかどうかについては前記のような判断を要する。これに対して、改善意見は、検定の合否に直接の影響を及ぼすものではなく、文部科学大臣の助言、指導の性質を有するものと考えられるから、教科書の執筆者又は出版社がその意に反してこれに服さざるを得なくなるなどの特段の事情ががない限り、その意見の当不当にかかわらず、原則として、違法の問題が生ずることはないというべきである。
オ 管理者の裁量判断は、許可申請に係る使用の日時、場所、目的及び態様のみの事情を考慮してされるものであり、その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとすべきものと解するのが相当である。
1 ア・イ
2 ア・エ
3 イ・オ
4 ウ・エ
5 ウ・オ