ア いかなる原因によるものであっても、不動産物権の変動があった場合において、これとていしょくする物権の変動が生ずる可能性があるときは、特別の規定または公益上重大な障害を生ずるおそれがないかぎり、不動産物権公示の原則に照らし、当該物権の変動について民法177条が適用されるものと解するのが相当である。しかし、国が買収処分により所有権を取得した後においては、民法177条の適用を排除する趣旨のものであると解するのが相当であり、その他未墾地買収処分による物権の変動について同条の適用を排除する趣旨の特別の規定も見当たる。更に、右物権の変動について同条が適用されるとしても、未墾地買収の特質およびその処分による所有権取得の登記手続に関する法制にかんがみ、右処分に関する法令の適用が適正であるかぎり、公益上重大な障害を生ずるおそれのあることは認められるものというべきである。したがって、右物権の変動についても、同条が適用されないものと解するのが相当である。
イ 会計法30条の五年の消滅時効期間の定めは、国の権利義務を早期に決済する必要があるなど主として行政上の便宜を考慮する必要がある金銭債権であって他に時効期間につき特別の規定のないものについて適用されるものと解すべきである。そして、国が、公務員に対する安全配慮義務を懈怠し違法に公務員の生命、健康等を侵害して損害を受けた公務員に対し損害賠償の義務を負う事態は、その発生が必然的であって多発するものといえるから、右義務につき前記のような行政上の便宜を考慮する必要はあり、また、国が義務者であっても、被害者に損害を賠償すべき関係は、公平の理念に基づき被害者に生じた損害の公正な補填を目的とする。
ウ 建築基準法63条は、耐火構造の外壁を設けることが防火上望ましいという見地や、防火地域又は準防火地域における土地の合理的ないし効率的な利用を図るという見地に基づき、相隣関係を規律する趣旨で、右各地域内にある建物で外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができることを規定したものと解すべきであり、同条は、建物を建築するには、境界線から50センチメートル以上の距離を置くべきものとしている民法234条1項の特別を定めたものと解して初めて、その規定の意味を見いだしうる。
エ 公営住宅法は、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で住宅を賃貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とするものであって、そのために公営住宅の入居者を一定の条件を具備するものに限定し、政令の定める選考基準に従い、条例で定めるところにより、公正な方法で選考して、入居者を決定しなければならないものとした上、さらに入居者の収入が政令で定める基準を超えることになった場合には、その入居年数に応じて、入居者については、当該公営住宅を明け渡すように努めなければならない旨、事業主体の長については、当該公営住宅の明渡しを請求することができる旨を規定しているのである。以上のような公営住宅法の規定の趣旨にかんがみれば、入居者が死亡した場合には、その相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継すると解されるというべきである。
オ 建築基準法四二条一項五号の規定による位置の指定(以下、「道路位置指定」という。)を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、道路の通行を敷地所有者によって妨害され、妨害されるおそれがあるときには、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除・将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するものというべきである。
1 ア・イ
2 ア・ウ
3 イ・エ
4 ウ・オ
5 エ・オ