ア 裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在したとしても、これによって当然に国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるわけのものではなく、右責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。したがって、本件において仮に前訴判決に所論のような法令の解釈・適用の誤りがあったとしても、それが上訴による是正の原因となるのは格別、それだけでは未だ右特別の事情がある場合にあたるものとすることはできない。
イ 刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに起訴前の逮捕・勾留、公訴の提起・追行、起訴後の勾留が違法となるということはない。けだし、逮捕・勾留はその時点において犯罪の嫌疑について相当な理由があり、かつ、必要性が認められるかぎりは適法であり、公訴の提起は、検察官が裁判所に対して犯罪の成否、刑罰権の存否につき審判を求める意思表示にほかならないのであるから、起訴時あるいは公訴追行時における検察官の心証は、その性質上、判決時における裁判官の心証と異なり、起訴時あるいは公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑ががあれば足りるものと解するのが相当であるからである。
ウ 国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で法的責任を負うものであり、個別の国民の権利に対応した関係での政治的義務を負うものではないというべきであって、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合はもちろん、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものといわなければならない。
エ 犯罪の捜査及び検察官による公訴権の行使は、国家及び社会の秩序維持という公益を図るために行われるものであり、かつ、犯罪の被害者の被侵害利益ないし損害の回復を目的とするものでもあり、また、告訴は、捜査機関に犯罪捜査の端緒を与え、検察官の職権を明確に発動するものでもあるから、被害者又は告訴人が捜査又は公訴提起によって受ける利益は、公益上の見地に立って行われる捜査又は公訴の提起によって反射的にもたらされる事実上の利益ではなく、法律上保護された利益であるというべきである。したがって、被害者ないし告訴人は、捜査機関による捜査が適正を欠くこと又は検察官の不起訴処分の違法を理由として、国家賠償法の規定に基づく損害賠償請求をすることができるというべきである。
オ 国会議員が国会で行った質疑等において、個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があった場合には、これによって国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が生ずるものであり、右責任が肯定される具体例は、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を適示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を適示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とする。
1 ア・イ
2 ア・ウ
3 イ・エ
4 ウ・オ
5 エ・オ