ア 公務員免職の行政処分は、それが取り消されない限り、免職処分の効力を保有し、当該公務員は、違法な免職処分さえなければ公務員として有するはずであった給料請求権その他の権利、利益につき裁判所に救済を求めることができなくなるのであるから、本件免職処分の効力を排除する判決を求めることは、右の権利、利益を回復するための必要の手段であると認められる。そして、新行政事件訴訟法九条が、たとえ注意的にもしろ、括弧内において前記のような規定を設けたことに思いを致せば、同法の下においては、広く訴の利益を認めるべきであって、上告人が郵政省の職員たる地位を回復するに由なくなった現在においても、特段の事情の認められない本件において、上告人の叙上のごとき権利、利益が害されたままになっているという不利益状態の存在する余地がある以上、上告人は、なおかつ、本件訴訟を追行する利益を有するものと認めるのが相当である。
イ Dは、本訴係属中に死亡したことにより、もはや将来にわたって公務員としての地位を回復するに由ないこととなったことは明らかであるが、本件免職処分後死亡に至るまでの間に公務員として有するはずであった給料請求権その他の権利を主張することができなかったという法律状態は依然として存続しており、その排除、是正のためには遡って右処分の取消しを必要とするのであるから、将来における公務員の地位の回復が不可能になったというだけでは、右処分の取消しを求める法律上の利益ないし適格が失われるものではない。そして、右の場合、原告である当該公務員が訴訟係属中に死亡したとしても、免職処分の取消しによって回復される右給料請求権等が一身専属的な権利ではなく、相続の対象となりうる性質のものである以上、その訴訟は、原告の死亡により訴訟追行の必要が絶対的に消滅したものとして当然終了するものではなく、相続人において引き続きこれを追行することができるものと解すべきである。
ウ 被爆者援護法27条に基づく認定の申請がされた健康管理手当の受給権は、当該申請をした者の一身に専属する権利ということができ、相続の対象とならないものであるから、被爆者健康手帳交付申請及び健康管理手当認定申請の各却下処分の取消しを求める訴訟並びに同取消しに加えて被爆者健康手帳の交付の義務付けを求める訴訟について、訴訟の係属中に申請者が死亡した場合には、当該訴訟は当該申請者の死亡により当然に終了するものであり、その相続人がこれを承継しないものと解するのが相当である。
エ 自動車運転免許の効力を30日間停止する旨の処分(以下「本件原処分」という。)の効果は右処分の日1日の期間の経過によりなくなったものであるが、本件原処分の日から1年を経過した日の翌日以降、被上告人が本件原処分を理由に道路交通法上不利益を受ける虞はなくなってなく、他に本件原処分を理由に被上告人を不利益に取り扱いうることを認めた法令の規定はなくはないから、、行政事件訴訟法九条の規定の適用上、被上告人は、本件原処分及び本件裁決の取消によって回復すべき法律上の利益を有するというべきである。
オ 確かに、免許証の更新処分において交付される免許証が優良運転者である旨の記載のある免許証であるかそれのないものであるかによって、当該免許証の有効期間等が左右されるものではない。また、上記記載のある免許証を交付して更新処分を行うことは、免許証の更新の申請の内容を成す事項ではない。しかしながら、上記のとおり、客観的に優良運転者の要件を満たすものであれば優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して行う更新処分を受ける法律上の地位を有することが肯定される以上、一般運転者として扱われ上記記載のない免許証を交付されて免許証の更新処分を受けた者は、上記の法律上の地位を否定されたことを理由として、これを回復するため、同更新処分の取消しを求める訴えの利益を有するというべきものである。
1 ア・イ
2 ア・オ
3 イ・エ
4 ウ・エ
5 ウ・オ