ア 農業共済組合が組合員に対して有するこれらの債権について、農業災害補償法が一般私法上の債権にみられない特別の取扱いを認めているのは、農業災害に関する共済事業の公共性に鑑み、その事業遂行上必要な財源を確保するためには、農業共済組合が任意加入制のもとにこれに加入する多数の組合員から収納するこれらの金円につき、租税に準ずる簡易迅速な行政上の強制徴収の手段によらしめることが、もっとも適切かつ妥当であるとしたからにほかならない。論旨は、農業災害補償法87条の2がこれら債権に行政上の強制徴収の手段を認めていることは、これら債権について、一般私法上の債権とひとしく、民訴法上の強制執行の手段をとることを排除する趣旨ではないと主張する。しかし、農業共済組合が、法律上特にかような独自の強制徴収の手段を与えられながら、この手段によることなく、一般私法上の債権と同様、訴えを提起し、民訴法上の強制執行の手段によってこれら債権の実現を図ることは、前示立法の趣旨に反し、公共性の強い農業共済組合の権能行使の適正を欠くものとはされず許されるところといわなければならない。
イ 鉄道営業法42条1項の規定により、鉄道係員が当該旅客、公衆を車外または鉄道地外に退去させるにあたっては、まず退去を促して自発的に退去させるのが相当であり、また、この方法をもって足りるのが通常であるが、自発的な退去に応じない場合、または、危険が切迫する等やむをえない事情がある場合でも、警察官の出動を要請する必要があり、鉄道係員において、当該具体的事情に応じて必要最小限度の強制力を用いうるものではない。また、このように解しても、鉄道事業の公共性に基づく合理的な規定として、憲法31条に違反するものではないと解すべきである。
ウ 浦安市の市長として事務を処理すべき責任を有する浦安市長は、船舶航行の安全を図り、住民の危難を防止するため、その存置の許されないことが明白であって、撤去の強行によってもその財産的価値がほとんど損なわれないものと解される本件鉄杭をその責任において強行的に撤去したものであり、本件鉄杭撤去が強行されなかったとすれば、千葉県知事による除却が同月9日以降になされたとしても、それまでの間に本件鉄杭による航行船舶の事故及びそれによる住民の危難が生じないとは必ずしも保障し難い状況にあったこと、その事故及び危難が生じた場合の不都合、損失を考慮すれば、むしろ浦安市長の本件鉄杭撤去の強行はやむを得ない適切な措置であったと評価すべきである。
エ 被害者(犯人)が所持していたナイフは比較的小型である上、被害者(犯人)の抵抗の態様は、相当強度のものであったとはいえ、一貫して、被告人の接近を阻もうとするにとどまり、被告人が接近しない限りは積極的加害が為に出たり、付近住民に危害を加えるなど他の犯罪行為に出ることをうかがわせるような客観的状況は全くなく、被告人が性急に被害者(犯人)を逮捕しようとしなければ、そのような抵抗に遭うことはなかったものと認められるが、その罪質、抵抗の態様等に照らすと、被告人としては、逮捕行為を一時中断し、相勤の警察官の到を待ってその協力を得て逮捕行為に出るなど他の手段を採ることが不可能であって、いまだ、被害者(犯人)に対しけん銃の発砲により危害を加えることが許容される状況にあったと認めることができる。
オ 国又は地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たるというべきであるが、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許される。従って、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たらず、これを認める特別の規定もないから、不適法というべきである。
1 ア・イ
2 ア・オ
3 イ・エ
4 ウ・エ
5 ウ・オ